「知らない」「これから」「関心がない」連発の鳥越俊太郎さん それでも都知事選に出る理由

    「参院選とは違う流れを作りたい」

    「関心がなかったから、公約は読んでない」

    「自民党から出馬する増田(寛也・元岩手県知事)さん、小池(百合子・元防衛相)さんの公約は読んでません。関心なかったから、読んでないんです」

    7月12日、東京・帝国ホテル。こう声を強めたのは、テレビなどで活躍する鳥越俊太郎さんだ。元毎日新聞記者、テレビキャスターも長く務めた。

    野党統一候補として都知事選への出馬をこの日、正式に表明した。立候補は突然だった。民進党から会見開催を告げるメールが届いたのは、12日午前10時27分だ。

    前日には、野党統一候補に選んでほしいと名乗りをあげていた石田純一さんが、立候補を見送ると会見を開き、民進党は元経産官僚の古賀茂明さんに立候補を依頼……。その最中に、鳥越さんの名前が急浮上する。

    「民進党から出馬の打診を受けて、決めたのではない。自分から手を挙げた」と話す。

    野党統一の候補者として最初期に名前が挙がっていたが、本人に出馬の意思はないとみられていた。事実、ある野党関係者はBuzzFeed Newsに「最初の段階でなくなったと聞いていた。昨日の夜に名前が上がってきたが、半信半疑だった」と話す。

    飛び入り参加も……

    この日の会見には、出馬が取りざたされていた古賀さんも飛び入りで参加した。

    スタッフが鳥越さんに何か、耳打ちする。鳥越さんが「古賀さんがいらっしゃいましたー。皆さん」と大きな声。「どうして、ここに古賀さんがいるのか。僕にもわかりません」とシラを切りながら、握手で出迎えるのだった。

    古賀さんは「同じ九州出身、同じようにガンも経験しました。鳥越さんに『選挙出ないんですか』とお願いしたのに『俺は出ない』と言われましたので、『出るときは応援する』と言いました。市民の声を集めることが大事だ」と話し、この席で、自身の不出馬と鳥越さんの支援を表明した。

    2人が握手をすると、慌てたカメラマンが「こっちを向いてください」「お二人こっち、こっち」と叫ぶ。

    鳥越さんも古賀さんと会話があった事実を認めた。「最初、古賀さんから電話もらったときは、俺はそんなもの出ないよと話した」。やはり当初、出馬の意思はなかったのだ。

    関心がないのに出馬した理由

    では、なぜ「関心がない」都知事選に出馬を決めたのか。最大の理由は自民、公明が大勝し、憲法改正に前向きな政党が議席を占めた参院選の結果だ。

    「あえて、付け加えるなら…」として語り始めた。

    「戦後70年間、平和な時代を過ごしてきたのに、時代の流れが変わってきた。首都である東京の問題でもある。自分なりに流れを元に戻したい。それを東京から発信したい」

    「私は戦争を知る最後の世代。私は戦後の、平和と民主主義の教育で育った第1期生。憲法改正ということが射程に入ってきている。これは東京都政と関係ないという人もいるが、東京は日本の首都。関係ないわけではない。参院選と違う結果がでれば嬉しいというのが、私の気持ちだ」

    肝心の政策はどうなのか?

    肝心の政策はまだ準備中だ。何より、昨日決めたばかりということを強調した。

    関心があるという子育て政策についても、「東京都の合計特殊出生率(※1人の女性が生涯に何人の子供を産むかを表す数値)は、他のところより高くて、1.4前後です。子供を産んで育て上げられる環境を作りたい。これはそんなに難しいことではない。本気になってやりたい」と語ったが、この数字は間違っていた。

    スタッフから紙を渡され、こう叫んだ。「東京都は1.17、全国最低ですというメモが入りました。私の間違いです。謝ります。これは変えないといけないですね。訂正します。すいません」

    「知りません」「これから」

    都政を担当する記者を中心に、質問を受ける。

    憲法は国政の課題ではないか。「憲法は国政の問題だと思っています。都政とは違うのはわかっています」

    東京オリンピックの費用削減について聞かれると「細かい費用は知りません。正直言って。税金を無駄使いしないのは当たり前です」

    都知事選の争点を聞かれると「これから他の候補の公約を読んで、どこが自分と違うのか。争点を組み立てないといけないと思っています」

    都政の具体的な課題を問われると「具体的に知りません。(都知事になったら)都民が納得いく答えを出します」

    実務経験のなさを問われると「大変でしょうね。そりゃあ。でも、これまでやってきた新聞記者もテレビキャスターも実務経験がなかった。基本的にはなんとかやれるだろうと思っています」

    「ガンになったことに比べれば、(都知事は)大したことないと思っています。ガン患者になっても、都知事が務まると思ってほしい」と声を張り上げた。

    迫る選挙戦

    「あえて…」と断り、語った参院選と改憲の問題と、当事者として関わるガンの話題。この2つはとりわけ声に力がこもっていたが、都政の課題は「知らない」「これから」と明言を避ける。

    判断材料になる政策もまだできていない。選挙戦が始まる7月14日、投開票日の7月31日は迫っている。